Geminiで変える英語授業:YouTube動画を活用した個別最適化学習と教材作成の効率化

はじめに:AIで変わる英語の授業

「多様な英語レベルの生徒たちに、どうすれば最適な学びを提供できるだろうか」
「日々の授業準備や教材作成の負担を、少しでも軽減できないか」
「生徒たちがもっと主体的に、そして楽しく英語を学べるような仕掛けが欲しい」

このような課題は、日々生徒と向き合う多くの先生方が抱える共通の悩みではないでしょうか。GIGAスクール構想によりICT環境が整備され、新しい教育実践への期待が高まる一方で、多忙な業務の中で新たな挑戦を続けることの難しさも浮き彫りになっています。

本記事では、こうした課題に対する一つの強力なソリューションとして、Googleの生成AI「Gemini」を英語教育に活用する方法を、教育関係者の皆様に向けて具体的に解説します。

生徒の興味関心を引きつけるYouTube動画を教材化し、一人ひとりの習熟度に合わせた問題を瞬時に生成する。このプロセスは、教材作成の大幅な効率化と、生徒主体の個別最適化学習の実現を可能にします。生成AIを「教員のパートナー」として活用し、英語教育の可能性を広げるための実践的なノウハウと、導入における留意点までを詳しくご紹介します。

目次

なぜ今、英語教育に生成AI(Gemini)なのか?

新学習指導要領では、生徒の「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」の実現が求められています。知識の伝達に留まらず、生徒が自ら課題を発見し、思考し、表現する力の育成が重要視される中、教員の役割も変化しています。

このような背景において、Geminiのような生成AIは、教育現場に以下の3つの大きな変革をもたらすポテンシャルを秘めています。

  1. 教材作成の抜本的な効率化 従来、動画教材を活用するには、教員が自ら内容を精査し、スクリプトを作成し、レベルに応じた設問を考案する必要がありました。Geminiは、YouTube動画のURLを入力するだけで、その内容を理解し、多角的な設問(内容理解、語彙、文法など)を自動生成します。これにより、教材準備にかかっていた膨大な時間を削減し、教員は授業設計や生徒との対話といった、より創造的で本質的な業務に集中できます。
  2. 個別最適化学習の実現 クラスには、様々な英語力や興味関心を持つ生徒が混在しています。Geminiを使えば、「CEFR B1レベル向けの問題」「英検2級レベルの単語を問う問題」といったように、生徒一人ひとりの習熟度や学習目標に応じた課題を瞬時に作成できます。生徒は自分のレベルに合った課題に取り組むことで、達成感を得ながら無理なくステップアップでき、学習意欲の向上にも繋がります。
  3. リアルで多様な英語へのアクセス 教科書だけでなく、ニュース、インタビュー、ドキュメンタリー、Vlogなど、YouTubeには現代社会で実際に使われている「生きた英語」が無数に存在します。生徒が自身の興味関心(例:ゲーム、ファッション、科学)に合わせて動画を選び、それを使って学ぶことで、学習へのエンゲージメントは飛躍的に高まります。Geminiは、この膨大なリソースを、質の高い学習教材へと変換する強力な触媒となります。

【実践編】Geminiによる英語学習教材の生成手順

実際の授業で活用することを想定し、具体的な手順を3つのステップで解説します。操作は非常にシンプルで、特別なITスキルは必要ありません。

ステップ1:教材とするYouTube動画の選定

全ての基本となるのが、教材として活用する動画の選定です。生徒の学習目標や興味関心を考慮し、最適な動画を選びましょう。

  • 選定のポイント
    • 学習目標との整合性:
      • 4技能統合型: TED Talks、ニュース解説、インタビューなど、論理的な構成の動画。
      • リスニング強化: 様々な国の話者によるVlogや対談など、自然な会話が含まれる動画。
      • 語彙・表現習得: 特定のテーマ(科学、歴史、文化など)に関する解説動画。
    • 生徒の興味関心: 生徒のアンケート結果などを参考に、趣味や関心のある分野の動画を選ぶと、内発的動機付けに繋がります。
    • 適切な長さとレベル: 授業時間や生徒の集中力を考慮し、5〜15分程度の動画から始めるのがおすすめです。音声が明瞭で、字幕(英語)が付いているものが学習に適しています。

動画が決まったら、ブラウザのアドレスバーからURLをコピーします。

ステップ2:プロンプト(指示文)の設計と問題生成

次に、Gemini(Google AI StudioやGemini搭載アプリ)を開き、プロンプト入力欄に指示を出します。ここでどのような指示を出すかが、生成される教材の質を大きく左右します。

  • 基本的なプロンプト例
以下のYouTube動画を教材として、高校2年生(英検準2級レベル)向けの英語学習問題を作成してください。

# 動画URL
[ここにコピーしたYouTube動画のURLを貼り付け]

# 作成する問題
1. 内容理解を問う選択問題 (Multiple Choice) を4問。 
2. 動画内で使われている重要単語の穴埋め問題 (Fill in the Blank) を3問。
3. 動画の要約を促す記述問題 (Summary Question) を1問。

解答も併せて生成してください。
  • 教育的効果を高めるプロンプトの工夫より指導意図を反映させるために、以下のような要素を加えてみましょう。
    • CEFRレベルの指定: 「CEFR A2レベルの学習者向けに、平易な単語で問題を作成してください」
    • 学習指導要領との連携: 「学習指導要領のCAN-DO目標『身近な話題について、簡単な質疑応答ができる』を達成するため、この動画の内容に関するペアワーク用の質問案を5つ作成してください」
    • 思考力を問う設問: 「この動画の話者の主張に対して、あなた自身の意見を英語で記述させる問題を作成してください」
    • 誤答選択肢の解説: 「選択問題では、なぜ他の選択肢が間違いなのか、その理由も簡潔に説明してください」

指示を入力し実行すれば、数秒から数十秒で問題と解答のセットが生成されます。

ステップ3:生成された内容の確認・修正と活用

AIが生成した内容は、必ず教員が最終確認を行います。AIは非常に優秀ですが、文脈の誤解や不自然な表現を含む可能性はゼロではありません。

  • 確認・修正のポイント
    • 設問の妥当性: 設問の意図は明確か。動画の内容と乖離していないか。
    • 解答の正確性: AIが提示した解答は正しいか。
    • 難易度の適切性: 対象とする生徒のレベルに合っているか。
    • 表現の自然さ: 不自然な日本語訳や英語表現はないか。

必要に応じて手直しを加え、Googleドキュメントや配布用プリントの形式に整えます。この一手間を加えることで、教材の質が担保され、安心して授業で活用できます。

授業での応用シナリオ:学びを深化させる活用テクニック

生成された問題を解くだけで終わらせず、多様な活動に展開することで、生徒の4技能をバランスよく育成できます。

  • テクニック1:反転授業への応用 家庭学習として、指定したYouTube動画の視聴とGeminiで作成した基本問題の解答を課します。授業では、その内容を前提として、より深いディスカッション、ディベート、関連するテーマでのリサーチ活動など、生徒同士が対話する協働的な学びに時間を充てることができます。
  • テクニック2:「インプット → アウトプット」のサイクル構築 生成AIは、スピーキングやライティング活動の土台作りにも非常に有効です。
    1. インプット: 動画を視聴し、内容理解問題を解く。
    2. 定着: スクリプト(Geminiに生成させることも可能)を使って音読やシャドーイングを行い、語彙や表現を定着させる。
    3. アウトプット:
      • スピーキング: 生成された質問を元にペアやグループでディスカッションする。動画の内容を自分の言葉で要約して発表する。
      • ライティング: 動画のテーマについて自分の意見を記述するエッセイを書く。
  • テクニック3:定期的な復習とポートフォリオ 学習効果を定着させるには、復習が不可欠です。Geminiに「以前作成した問題の類題を、別の単語を使って作成して」と依頼すれば、簡単に復習用ドリルが準備できます。また、生徒が取り組んだ問題やライティングの成果物をデジタルポートフォリオとして記録・蓄積していくことで、学習の軌跡が可視化され、生徒自身の成長実感と教員の評価に繋がります。

導入における留意点と倫理的配慮

生成AIを教育現場で活用する上では、その利便性だけでなく、いくつかの重要な留意点を理解しておく必要があります。

Q1:生成された情報の正確性は?(ファクトチェックの重要性)
A1: Geminiは膨大なデータに基づいて回答を生成しますが、その情報が常に100%正確であるとは限りません。特に専門的な内容や最新の時事問題では、誤った情報や古い情報を含む可能性があります。AIが生成した問題や解答、要約などはあくまで「下書き」と捉え、最終的な正誤の判断と内容の責任は、指導する教員が負うという意識が不可欠です。授業で利用する前には、必ず教員自身によるファクティリティチェックを行ってください。

Q2:著作権の問題はクリアできる?
A2: YouTube動画の利用には著作権への配慮が必須です。日本の著作権法第35条では、学校等の教育機関が授業の過程で利用する場合、必要と認められる限度において、公表された著作物を無許諾で複製・利用できると定められています。しかし、この規定には「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は除くという但し書きがあり、利用できる範囲は限定的です。 授業での利用にあたっては、文化庁が公表しているガイドラインや、SARTRAS(授業目的公衆送信補償金等管理協会)の指針などを確認し、適正な範囲での利用を心がけてください。 生徒への限定公開や、必要最小限の範囲での利用が原則となります。

Q3:生徒の個人情報の扱いは?
A3: 生徒の氏名、成績、内面に関する情報など、個人情報をプロンプトに絶対に入力しないでください。 AIの学習データとして利用されるリスクがゼロではないため、プライバシー保護の観点から厳格な運用が求められます。教材作成は、個人を特定できない一般的な条件(学年、英語レベルなど)で行うようにしてください。

まとめ:AIは、教員の専門性を拡張するパートナー

本記事では、生成AI「Gemini」とYouTube動画を活用して、英語の授業準備を効率化し、個別最適化された学習を実現するための具体的な方法と、その教育的価値について解説しました。

重要なのは、生成AIは教員の仕事を奪うものでも、安易な代替物でもないということです。むしろ、これまで教材作成や単純作業に費やしていた時間を、生徒一人ひとりとの対話、学習の進捗に合わせたフィードバック、創造的な授業設計といった、教員にしかできない、より専門性が求められる領域へとシフトさせるための強力なパートナーとなり得ます。

テクノロジーを賢く活用し、その恩恵を生徒たちの「深い学び」へと還元していく。Geminiと共に、未来の英語教育を創造していく一助となれば幸いです。

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この記事を書いた人

教育×ICT×AI×働き方について発信。
教育とテクノロジーの視点から「これからの学びと仕事」を探求中。
仕事に追われてもストレスを感じてもどこでも寝れば回復。
好きな生成AIは「Gemini」

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